経費を認識するときとは?

 経理の仕事を始めた頃、経費の日付についてあまり深く考えずに入力を行っていました。そのため、経理データの確認時に日付が間違っていると指摘されることがよくありました。簿記の勉強では日付を意識することは特にありませんでしたが、税法や会計基準を勉強するうちに日付がとても重要であることがわかり、今までの入力が正しくできていたのかどうかと、少しの不安と恐怖を感じたことを覚えています。

 請求書には、いろいろな日付(発行日や締日、納品日、支払日など)が記載されています。その形式も取引会社によって様々です。そのため、型にはめて処理するのは簡単ではありません。請求書から正しい日付を読み取り、適切に経理データを入力するためにも、経費をいつ認識するのか整理しておきましょう。

目次

経費の日付の考え方とは?

 経費の日付には、2つの考え方があります。それは「発生主義」と「現金主義」と呼ばれるものです。

 「発生主義」とは、支払った日ではなく、商品を受け取った日やサービスを受けた日など、実際にモノやサービスが提供された日に経費を認識する考え方です。

 「現金主義」とは、お金を支払った日など、実際にお金が動いた日に経費を認識する考え方です。

「発生主義」と「現実主義」の違い

それぞれの考え方を詳しく見ていきましょう。

発生主義

 法人、個人事業主は原則として発生主義で経費の日付を入力します。

 発生主義で入力を行うと売上と経費が対応するようになるので、月々の利益を正確に把握することができます。また、税金の計算や決算書の作成は発生主義で行うため、日々の入力を発生主義で行っておくことで、決算時に入力内容を修正する手間が省けます。

 ただし、日々の経理データは経費が発生したときと支払ったときの2回の入力が必要になります。さらに、前払いしている場合は一度資産として認識します。商品やサービスが提供されるごとに資産から経費に変化させていくので、処理する手間が増えることがデメリットです。

 また、発生主義の場合、お金を支払っていない経費(減価償却費など)やお金を支払ったが経費になっていないもの(棚卸資産など)があるため、利益が実際のお金の増加と一致することはありません。そのため、お金の増減を把握することが難しく、資金繰りの把握がしにくいという特徴もあります。

現金主義

 現金主義は小規模の個人事業主のみが特別に選択することができます。

 最大のメリットは、経理データを作成する手間が少ないことです。お金の動きだけを基準にして経理を行うため、入力は支払ったときの1度だけで済みます。また、前払い分も支払ったときの経費になるため、月々に分ける手間もなくなります。利益がそのまま資金繰りに直結するので、お金の有無は認識しやすいです。

 ただ、現金主義はお金の動きがあったときに売上や経費を認識するため、例えば3月の売上のための経費を支払った5月に経費として認識すると、売上と経費の対応ができず、月々の業績の良し悪しがわからなくなります。すると、このまま事業を続けて良いのかなどの経営判断がしにくくなります。

 現金主義で入力していたとしても、ほとんどの方は決算には経理データを発生主義に変える必要があるため、決算時に多くの処理が必要になります。さらに、現金主義で経費として処理していた前払い分は発生主義では資産として入力するため、現金主義から発生主義に変えたときは経理データの修正が必要になります。

考え方の違いをどう使うの?

 実際は会社によって発生主義と現金主義の使い方は様々です。例えば、普段は現金主義で入力し、決算で発生主義に変更する方法。この処理は現金主義、こっちの処理は発生主義と使い分けながら、決算時に現金主義で行った処理を発生主義に変える方法などがあります。ただ、最終的に決算では発生主義で決算書を作成することが求められます。(個人事業主で現金主義が認められている場合を除きます。)

 私としては、すべて発生主義のみで入力することをおすすめしています。経営状況を正確に把握することで、判断を早く正確に行うことができるからです。また、資金繰りについては経理データを加工することで十分対応が可能です。

 もちろん、現金主義を発生主義にデータを変換することもできますが、その場合、経理データには現金主義と発生主義の2つの日付が必要になります。また、前払い分などについては、現金主義と発生主義で処理方法が異なるため、2つの日付を入力したとしても、正確に利益を計算することは難しいでしょう。そのため、現金主義を選択できる個人事業主であっても、発生主義で経理を行うことをおすすめします。

収益との関係性を意識しよう

 発生主義で経費を認識するというお話をしてきましたが、商品を仕入れた場合はどうでしょう?例えば、当期に翌期分を全て仕入れた場合、発生主義に従うと翌期の原価は0円になります。ですが、これは認められていません。当期の収益に対応する分のみ、当期の経費として認められます。これを「費用収益対応の原則」といいます。

 その具体例が「棚卸」です。当期に仕入れた商品が売れ残った場合、その分を棚卸資産として、当期の経費から除きます。すると、当期の商品は販売した分だけが経費となる、という仕組みです。

 このように一度は経費として入力していたとしても、その後に経費から除かれる棚卸資産のようなものもあります。

 固定資産は棚卸資産とは逆で、支払ったときに経費ではなく資産として入力し、使用量や期間に応じて少しずつ経費化していきます。

 例えば、製造業であれば固定資産を使用して製品を生産することで、売上を得ることができ、固定資産の購入という投資の効果がしばらく続くと考えられます。そのため、購入してすぐに経費として処理するのではなく、売上に対応するように、一定の期間で少しずつ経費を認識するのが実態に即していると考えられるため、購入時に経費ではなく資産として入力します。

 このように発生主義であっても、すべてがすぐに経費となるわけではありません。資産となるものと経費になるものを見分ける目を少しずつ養っていきましょう。

まとめ

 現金主義と発生主義について見てきました。月々の利益を正確に見ることが正しく迅速な経営判断につながるため、発生主義で入力することをおすすめしています。

 経費は、商品やサービスを受けたときに経費として認識することが基本になります。発生主義の概念を知っておくことで、少しでも迷わずに請求書から日付を選択できるようになるはずです。

 売上に対応するものは経費に、そうでないものは資産や負債などに入力できるよう、見極める力をつけていきましょう。

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