
初めて経理をした頃は、物を購入したとき固定資産なのか経費なのかで迷うことがよくありました。また、イメージだけで経理処理をしてしまい、固定資産にしたりしなかったりと、バラバラになってしまったこともあります。今回は何かを購入したときに、「これは固定資産、こっちは経費」と判断できるように、定義から1つずつ確認をしていきましょう。
固定資産って何?
固定資産とは、長い期間にわたって収益を生み出したり、経費を削減したりするもののことをいいます。
たとえば、固定資産には営業車や製造設備、建物、家具・家電などがあります。ただし、固定資産になるかどうかの判断には単価が関係してきます。
一般的な目安として、単価が10万円以上の場合は固定資産になる可能性があります。逆に、単価が10万円未満のときは固定資産ではなく経費(消耗品など)として処理することができる、と覚えておくと良いでしょう。
上記の具体例も金額が大きくなりやすいものを挙げています。金額がポイントとなるので、極端な話、30万円以上のボールペンは固定資産になり、10万円未満の自動車は消耗品などの経費にすることができます。
単価で判断するため、形があるものだけでなく、ソフトウェアのような形のないものも固定資産となる場合があります。イメージも大切ですが、単価にも注目して経理を行いましょう。
金額で判断しよう。固定資産の3つの分類
固定資産は経費ではなく「資産」となるため、購入したときにすぐに経費にせず、少しずつ経費化するのが基本です。このように、使用した期間や使用量に応じて少しずつ経費化していくことを「減価償却」といいます。
固定資産の判定に単価が関係するとお伝えしましたが、この単価によって、固定資産を分類し、その分類に応じて経理処理を行います。固定資産のうち、金額が小さいものほど、減価償却の金額が大きい(早く経費化することができる)ので、固定資産を正しく分類することが大切です。
では、固定資産をどのように区別するのか確認していきましょう。
- 一括償却資産
- 少額減価償却資産の特例
- その他の固定資産
一括償却資産
単価が10万円以上20万円未満の固定資産を「一括償却資産」といいます。この価格帯の固定資産は、あとで説明する「少額減価償却資産の特例」を適用することもできるため、どちらの方法で処理するか判断が必要です。
減価償却の方法は、購入した年度から取得額の3分の1ずつ経費化していきます。期の途中で購入していても、使用月数にかかわらず、均等に3年で減価償却することができます。
また、一括償却資産は「償却資産税」の対象にはなりません。
少額減価償却資産の特例
単価が30万円未満の固定資産には「少額減価償却資産の特例」を適用することができます。この特例は中小企業者等の法人や個人事業主が対象です。ただし、この特例を適用して購入した固定資産の合計額は、1年間で300万円までと上限が決まっています。
この特例では、固定資産を購入時に一括で経費化することができます。そのため、固定資産の登録をせず、消耗品などで処理する場合もあります。
この特例を適用した場合は、「償却資産税」の対象となります。そのため、消耗品などで処理をしていると申告を忘れてしまう可能性が高いため、一度固定資産の登録をして、全額減価償却を行う方法をおすすめします。
その他の固定資産
単価が10万円以上で「一括償却資産」や「少額減価償却資産の特例」のどちらにも該当しないものが「その他の固定資産」となります。簿記などでよく登場する一般的な固定資産です。
減価償却の計算は、定額法、定率法などの償却方法を使い、法律で決められている使用期間(耐用年数)をもとに、使用月数に応じた金額を計算します。たとえば、決算月から使い始めた場合は、その年度は1か月分だけの減価償却となります。
また、その他の固定資産は「償却資産税」の対象です。
購入金額が取得額じゃないの?取得額の計算方法
固定資産の取得額は購入代金だけでなく、運送費・設置費・検収費など、使い始めるまでにかかる費用も含まれます。これらの費用を「付随費用」といい、取得額に加える必要があります。
一方で、取得額に含めなくても良い費用もあり、自動車購入時の自賠責保険、ソフトウェア購入時のコンバート費用、不動産購入時の登記費用などがそれにあたります。
付随費用を取得額に含めないと、税金の計算を正しく行うことができません。逆に、取得額に含めなくてもいい費用を取得額に含めることは法律上問題ありませんが、結果として税金を多く支払ってしまう可能性があります。そのため、「どんな費用が付随費用になるのか」を理解しておくことが大切です。
いつ何をどう確認するの?固定資産の確認方法
固定資産を確認するタイミングは、大きく4つあります。
- 経理データを入力するとき
- 固定資産管理ソフトに登録するとき
- 固定資産台帳を確認するとき
- 実地棚卸を行うとき
経理データを入力するとき
経理データを入力するときに次のポイントが正しく反映されているかどうかを確認します。
- 消費税が正しく反映されているか
- 付随費用を取得額に含めているか
- 単価の計算が正しいか
固定資産に関する処理は、税法が複雑で間違えやすい部分です。そのため、請求書・見積書・稟議書などの書類はまとめて保管しておくと、確認や修正がしやすくなります。
固定資産管理ソフトに登録するとき
会計ソフトの中には固定資産の管理ができる機能を備えたものもあります。そのようなソフトを使っている場合は、経理データの入力とあわせて、固定資産も登録します。登録するときのポイントは次のとおりです。
- 税込み金額で登録していないか
- 使用開始日(事業供用日)は正しいか
- 耐用年数は正しいか
- 登録した設置場所で固定資産を把握できるか
また、可能であれば、登録した固定資産の減価償却額が想定通りか検算しておくと安心です。
設置場所の情報は棚卸のときに役立ちます。たとえば、階数や部屋ごとに分けて登録しておくと、棚卸のときに現物の確認がしやすくなります。
固定資産台帳を確認するとき
月末に固定資産台帳と会計ソフトの残高が一致していることを確認します。
経理処理で減価償却累計額を使用している場合は、取得額と減価償却累計額が一致するかも確認しておきましょう。月々の減価償却を行っていない場合は、減価償却累計額が一致しないのが通常です。その場合は、決算時にまとめて確認します。
固定資産台帳と会計ソフトの残高が一致しないケースは少なくありません。もし一致しない場合は、税務上の判断が必要なので、税理士に確認しましょう。一度ズレが生じてしまうと修正に多くの費用や時間がかかってしまうので、決算では必ず照合を行うようにしておきましょう。
実地棚卸を行うとき
実地棚卸は、償却資産税の申告と決算のために行います。償却資産税とは、1月1日に所有している一部の固定資産に対してかかる税金です。そのため、棚卸を行うタイミングは1月1日と決算日の2回となります。棚卸を通じて廃棄した資産や登録していない資産の修正を行い、会計ソフトと固定資産台帳の残高が一致していることを確認します。
廃棄していた固定資産が固定資産台帳に残っていることも少なくありません。登録している固定資産が実際にあるかどうかを棚卸で確認しましょう。
固定資産の経理処理の注意点
12月から償却資産税のための経理を始める
償却資産税の申告は1月末が提出期限です。そのため、1月1日に固定資産の棚卸を行い、固定資産台帳と12月末時点の会計ソフトの残高を確認することになります。申告を正しく行うためにも、12月までの経理データは早めに整えておく必要があります。日ごろから経理を行なっていない場合は、12月の早い段階から経理データの整理に取りかかると良いでしょう。
一括償却資産の勘定科目を作っておく
一括償却資産は機械装置や備品などとは分けて、「一括償却資産」といった勘定科目をつくっておくと良いでしょう。一括償却資産は減価償却の途中で廃棄や売却をしても、予定通りに減価償却を続けます。そのため、もし減価償却以外で残高が減っていれば、何らかの問題がある可能性があります。こうした場合に備えて、別の勘定科目で処理しておくと、確認や管理がしやすくなります。
少額減価償却資産の特例では固定資産として入力しておく
少額減価償却資産の特例を適用するとき、購入した固定資産を「消耗品」として処理することがありますが、これはおすすめできません。この特例を適用した固定資産は、「償却資産税」の対象になるため、固定資産として登録しておく必要があります。もし、消耗品で処理していると、固定資産台帳と減価償却額・減価償却累計額が一致しなくなります(固定資産管理ソフトにより異なります)。
そのため、購入時は「固定資産」として入力し、全額を減価償却する方法が望ましいです。帳簿の整合性が保たれ、本来の会計処理とも合致するため、現状を正しく把握できます。
少額減価償却資産の特例を適用できる中小企業者等とは?
中小企業者等とは、次の3つの条件を満たす場合に当てはまります。
- 決算日に資本金や出資金が1億円以下であること
- 完全子会社でなく、普通法人であること
- 従業員が300名以下であること
上記の条件は、わかりやくするために簡略化しています。実際には、もう少し広い範囲の会社に適用できます。そのため、上記の条件を満たさなくても、中小企業者等と認められる可能性があります。税務関係の話になりますので、判断に迷う場合は税理士に確認しましょう。市役所や商工会議所などで、税理士による無料相談会が定期的に開催されていまので、ぜひ活用してみてください。
固定資産の減価償却額の計算は複雑
減価償却の計算には、定額法・定率法・旧定額法・旧定率法などがあり、それぞれ計算方法が異なります。さらに勘定科目、取得年月によって償却方法が変わるため、エクセルで減価償却額を計算するのは困難です。
また、償却資産税で行う減価償却の計算方法は、上記とは異なるため、経理の減価償却額と別に管理する必要があります。
こうした理由から、固定資産をエクセルで管理することはおすすめしていません。管理ソフトを導入するか、税理士や業務代行に依頼する方が安心です。
廃棄時の経理処理を忘れないように注意する
固定資産を廃棄する際、廃棄費用が発生しなかったり、一定量をまとめて処分したりすることがあります。このような場合、廃棄したことを証明する資料がないことも多く、経理処理をうっかり忘れてしまうことがあります。また、経理ソフト上では廃棄を行っていたとしても、固定資産管理ソフトで廃棄したことを登録していないケースもあります。固定資産と思われるものを廃棄する際は、固定資産台帳に登録されているかどうかを確認する習慣をつけておきましょう。
固定資産の耐用年数の調べ方
固定資産の耐用年数は国税庁のホームページで確認することができます。見慣れていないと、最初は戸惑うかもしれません。
たとえば、パソコンの耐用年数を調べると、次のような分類をたどります。
器具備品 → 事務機器、通信機器 → 電子計算機 → パーソナルコンピュータ → 4年
このように、「電子計算機」などの一般的ではない言葉が出てくるため、少しわかりにくく感じます。もし耐用年数を間違えると、納めるべき税金が少なかったり、逆に税金を納めすぎたりするリスクがありますので、慎重に確認しましょう。
固定資産とサービスの関係
固定資産の判断は単価で行うといいましたが、それは物品であることが条件となります。資産として価値がある場合に、固定資産として扱います。ただし、コンサルティング費用やメンテナンス費用など、価値の判断が明確でないサービスは、単価が10万円以上でも固定資産にはなりません。
まとめ
固定資産に関する経理では、注意すべき点がたくさんあります。今回の内容以外にも、補助金や融資の対象になったり、税制上の優遇措置が適用されたりすることがあります。まずは、固定資産を購入したときに、どのように経理処理すればよいかを確認しておくことが大切です。考えることが多くて大変に感じるかもしれませんが、1つずつ確認していきましょう。