
事業を始めるうえで必要となるのが資金です。銀行やノンバンク、知人などから借りることも少なくありません。事業の継続や拡大、方向性の変更などに際して、資金をどのように調達し、何に使うかが重要です。借金は悪いものという考えがありますが、事業においては必要な選択肢の一つです。今回は資金を借りたときの経理処理について確認していきましょう。
借入金とは何か?
借入金とは、他社や他人から借りたお金のことを指します。その勘定科目は、次の3つに分けられます。
- 短期借入金
- 1年以内返済長期借入金
- 長期借入金
短期借入金
短期借入金とは、当期に借りて翌期に完済する借入金のことです。借りている期間が短いため、流動性の高い負債に分類されます。返済時期が近いことから、資金の使いみちを考える際の判断材料にもなります。主に運転資金として融資を受けることが多い借入金です。
1年以内返済長期借入金
1年以内返済長期借入金とは、長期借入金のうち、翌期末までに返済する予定の借入金です。こちらも返済時期が近いため、流動性の高い負債に分類されます。短期借入金とあわせて確認することで、翌期に返済すべき金額が一目で分かり、資金の使いみちを考える際の判断材料になります。
長期借入金
長期借入金とは、翌期末までには完済しない借入金を指します。返済まで時間がかかるため、流動性はほとんどありません。主に固定資産の購入のために借り入れます。そのため、固定資産の購入のために借り入れた場合は、固定資産の耐用年数と返済期間をそろえることで、資金繰りが安定しやすくなります。
なお、これらの分類はあくまで一例です。「1年以内返済長期借入金」という勘定科目を使用しないこともあります。大切なのは、勘定科目の考え方を統一し、毎期同じ方法で経理処理を行い続けることです。そうすることで、前期と比較できる経理データが作成できます。
1年以内返済長期借入金を使用しない経理処理
1年以内返済長期借入金という勘定科目は、あまり一般的ではありません。実務では、短期借入金と長期借入金の2種類で処理することが多いです。これは、中小企業の会計が債権者(銀行や株主など)に報告するためではなく、税金の計算に特化していることが関係していると考えています。
実際の状況をより詳しく表すことができるのは、「1年以内返済長期借入金」という勘定科目を使う分類方法ですが、その勘定科目を使わなくても税金の計算上は影響がないため、税理士や税務署から指摘を受けることはほとんどありません。
また、勘定科目を細かく分類すると経理の手間は増えるため、借入金が少ない場合には、税務処理を優先して簡単な方法を選ぶこともあります。
さらに、今後の借り入れ計画も勘定科目の選択に影響します。資金を借りる予定がない場合は、債権者(銀行など)への詳細な報告の必要性が低いため、「1年以内返済長期借入金」は使用しないという判断になることもあります。
ただし、借入金が多いのか少ないのか、今後の借り入れ計画がわからない場合は、「1年以内返済長期借入金」の勘定科目を使うことをおすすめします。決算時に翌期に返済する金額がすぐにわかり、資金繰りの参考になります。
「1年以内返済長期借入金」という勘定科目を使わないとしても、翌期末に返済する予定の借入金がある場合は長期借入金から短期借入金に変更する経理処理は行う方が良いでしょう。
借入金を管理しよう
借入金を確認する前に、まず預金残高が通帳と一致しているかを確認しましょう。一致していない場合は、経理データの入力が完了していない可能性があります。経理データの入力がほぼ終わっていることが確認できたら、借入金の確認に進みます。
経理データと照らし合わせるために使う資料は次のとおりです。
- 返済予定表
- 借入金一覧表(作成している場合のみ)
返済予定表
返済予定表には、毎月の返済額や利息額、借入残高が記載されています。すぐに確認できるよう、手元に保管しておきましょう。この借入残高と経理データ上の借入金残高が一致しているかを確認します。
なお、固定金利で10年返済などの場合は、同じ返済予定表を使い続けることもあります。用紙が劣化しやすいため、スキャンやコピーをとって管理しておくと安心です。
借入金一覧表
この表は、借入金を管理するためのものです。利率や融資額、元金残高、融資日、完済日、担保の有無などを記載します。銀行から融資を受ける際に、提出を求められることが多い資料です。作成するのであれば銀行への提出だけを目的とするのではなく、自社の借入金を把握・管理する目的を加えて自主的に作成すると良いでしょう。
確認時には、借入金一覧表と経理データの残高が一致しているかをチェックします。経理データをもとに借入金一覧表を作成すると残高のズレが起きにくくなります。日々、経理を行っている場合は、経理データを活用して借入金を管理すると効率的です。
借入金の注意点
支払利息は後払いと前払いのどっちが良いの?
利息には、後払いと前払いの2つの方法がありますが、前払いをおすすめします。
前払いであれば、支払時にすぐに経理処理ができるため、処理方法に迷わず対応できます。
一方、後払いの場合は、決算時に当期分と翌期分を正確に分ける必要があり、計算に手間がかかります。特に、複数の融資がある場合は、利息の支払い方法ごとに経理処理を分ける必要があるため、管理の負担も増えます。
とはいえ、実務ではすべてを支払い時に処理している会社も少なくありません。後払いの利息を支払い時に全額経費として処理する場合は、税務上のリスクが生じる可能性があるため、税理士に相談すると良いでしょう。
借入金の返済は経費ではない
借入金は「負債」として扱われるため、利益を計算するうえでの経費にはなりません。「利益が出ているから、借入金を早めに返済したい」と考える方もいます。たしかに、資金に余裕がある場合は問題ないかもしれませんが、税金を減らす効果はありません。かえって資金繰りが悪化するリスクがあるため、借入金の早期返済は避けた方が良いでしょう。
借入金の金額とは?
融資を受けるとき、手数料や印紙代などが差し引かれて入金されることがあります。しかし、経理では手数料などが差し引かれる前の融資の実行額を借入金として入力します。
初めて経理を行うときは、入金された金額のみを借入金として処理してしまうことがあるので注意が必要です。
まとめ
借入金に関する勘定科目の分け方や支払利息の処理方法など、融資を受けるとさまざまな経理処理が発生します。あらかじめ処理の方法を確認しておけば、経理業務を少なくするような借り方を考えることもできます。細かな点に気を配ることが、経理業務の効率化にもつながります。単にお金を借りるだけではなく、経理を少しでも楽にしたり、リスクを減らしたりするような借り方を意識すると良いでしょう。