
事務所や社宅として物件を借りる際、最初の支払いにはさまざまな経費が含まれているため、経理処理が複雑になります。全部家賃として処理して良いのか迷ったり、経理処理の方法がわからなかったりすることもあるでしょう。今回は家賃を支払うときの経理処理について確認していきます。
家賃の勘定科目を区別する
一口に家賃といっても、事務所やその駐車場など事業に直接関係するものは「地代家賃」、社宅やその駐車場など従業員のための支出は「福利厚生費」となります。
地代家賃と福利厚生費を分けて処理することは、税金の計算上は必須ではありませんが、人件費にどの程度支出しているかを把握したり、事業に必要な家賃を確認したりするためには勘定科目を適切に区分しておく方が良いでしょう。
駐車場の経費については、毎月支払う月極駐車場などは「地代家賃」や「福利厚生費」として処理します。コインパーキングなどの一時的な利用については「旅費交通費」となります。不動産の使用料は税務署に提出する「支払調書」の対象ですが、コインパーキングのような一時的な支出は対象外です。そのため、「旅費交通費」と「地代家賃・福利厚生費」は経理データの入力時に分けておくことで、支払調書の作成や日々の管理がしやすくなります。
賃貸で請求される経費とは?
家賃の経理処理では、「地代家賃」の金額は支払った金額ではなく、その中身で判断します。
初めて物件を借りるときは、敷金や礼金、仲介手数料など、家賃以外の経費が含まれていることが多いです。それらは「地代家賃」とは別の勘定科目で処理します。
以下は事務所を借りた場合の勘定科目の一例です。社宅の場合は、これに加えて「福利厚生費」とするかどうかの検討が必要です。
家賃 | 地代家賃 |
共益費 | 地代家賃 |
敷金 | 敷金、または差入保証金 |
礼金 | 支払手数料、または(長期)前払費用 |
仲介手数料 | 支払手数料 |
火災保険 | 支払保険料、または(長期)前払費用 |
鍵交換費用 | 支払手数料 |
クリーニング費用 | 支払手数料 |
敷金
敷金は「敷金」や「差入保証金」として処理しますが、この処理は将来返金されることを前提としています。実際には返金されることがほとんどですが、まれに契約書に返金しない旨が記載されている場合もあります。その場合は礼金と同じく「支払手数料」または「(長期)前払費用」となるため、契約内容をよく確認しておきましょう。
礼金
礼金は税務上、金額が20万円を超えるかどうかで処理方法が分かれます。
金額が20万円未満であれば、一括で経費にできるので、「支払手数料」として処理します。
金額が20万円以上の場合は、「(長期)前払費用」として処理し、特定の期間で少しずつ経費化(償却)していきます。その期間は「5年」または「契約期間」のうち、短い方の期間となり、使用した月数に応じて償却金額を計算します。
火災保険
火災保険は保険料を前払いすることが多く、2年分を支払うのが一般的です。1年以内の契約であれば「支払保険料」などの勘定科目で処理できます。1年を超える場合は「(長期)前払費用」として処理し、使用した月数に応じて償却金額を計算します。
地代家賃は管理表があると安心
地代家賃の支払いは、引き落としや振り込みなど、契約先によって支払方法が異なることがあります。また、金額は毎月一定であることが多いため、請求書や口座引き落としのお知らせなどの資料が発行されない場合もあります。その結果、支払い漏れが起きたり、引き落とし金額の内容がわからなくなったりすることがあります。支払いや経理処理に不安を感じたら、エクセルなどで管理表を作成すると良いでしょう。
地代家賃の管理表は、次のような項目で作成することが多いですが、項目に決まりはありません。
- 管理会社
- 貸主
- 住所
- 入居者や利用用途
- 支払方法や支払日
- 支払金額の内訳(家賃、共益費、駐車場料金など)
- 内訳ごとの支払金額
管理エクセルを作成している場合は、それをもとに振込みを行い、経理データも合わせて入力します。
地代家賃は毎月同じ金額を支払うことが多いため、経理データの摘要(経費内容をメモ書きする項目)を見ると、毎月同じ内容のデータが並んでいるはずです。その場合は問題なく処理できていると判断して良いでしょう。
保険料や礼金などは前払費用として処理することもあるので、地代家賃とは別に前払費用の管理エクセルを作成します。前払費用はさまざまな経費で発生するため、件数が少なくても管理エクセルで記録しておくことをおすすめします。この管理エクセルを使って、毎月の償却処理を行います。
前払費用の詳細については、また別の機会に説明します。
経理処理を統一しよう
従業員のための社宅や寮を借りる際の家賃などは「福利厚生費」として処理することが多いです。会社としてどの支出を地代家賃にし、どの支出を福利厚生費にするかといったルールを決めておくと経理処理に一貫性が生まれます。経理処理に一貫性があることで、前期と経理データを比較することができるようになります。
ただ、そのルールが一般的な考え方とかけ離れていると、国や民間企業の統計データの活用や他社比較も行いにくくなります。そのため、ある程度は世間の基準も参考にしておくと良いでしょう。
法定調書のための管理
家賃や土地代を支払った法人や不動産業を営む個人事業主は、法定調書(不動産の使用料等の支払調書)の提出が必要です。提出期限は1月31日で、前年1年間に支払った内容を記載します。
法定調書には、支払先の名称、住所、法人番号、物件の所在地、用途、支払金額、仲介手数料の支払先などの情報を記載して税務署に提出します。管理エクセルを作成している場合は、上記の情報もまとめておくと支払調書作成時に役立ちます。必要な情報の詳細は、国税庁のHPをご確認ください。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/pdf/r07/05.pdf
消費税への対応と法定調書の準備
消費税に関する注意点です。消費税を納める必要のない方(免税事業者)は、この部分を読み飛ばしていただいて問題ありません。
消費税を納めている会社では、インボイス(消費税額を証明する書類)の有無を確認する必要があります。管理会社がインボイスを発行していることもありますが、毎月同じ金額となることが多いため、請求書が発行されず、契約書自体がインボイスとして扱われることもあります。
支払った消費税であることを経理データ上で証明するには、支払先(インボイス登録事業者)を記載する必要があります。管理会社か貸主がインボイスを発行しますが、管理会社が発行する場合は支払先として管理会社の名称を記載します。
ですが、法定調書では管理会社は貸主の代行を行っているとみなされ、実際には貸主に対して支払った金額として扱われます。そのため、管理エクセルなどで貸主と管理会社の両方を把握しておくと、法定調書を作成する際に役立ちます。
管理エクセルを作成していない場合は、摘要に管理会社と貸主の両方を記載しておきましょう。
まとめ
地代家賃は、請求書などの資料が届かないこともあるため、月々の支払いを忘れたり、解約後に支払いを止めるのを忘れたりと、間違えやすい経費です。物件を借りたときには、様々な経費も一緒に請求されるため、経理処理も複雑になります。1月31日までに提出する法定調書の作成もあります。
ミスの防止や法定調書の作成に備えるため、管理表を作成したり、経理データの摘要を整えておいたりと、入力時から情報を整理しておくと良いでしょう。