
サービス業のように原価がない業種もありますが、多くの業種では売上があれば原価がつきものです。商品が1種類であれば原価の計算は簡単ですが、多種多様な商品がある場合は、システムを整えなければ仕入値や在庫の管理が難しくなります。原価をどのように計算し、金額の確認を行うのかをお話しします。
売上原価とは?
そもそも売上原価とは、売上をあげるために直接関係する経費のことをいいます。冒頭でも挙げた商品の仕入れなどが該当しますが、それは業種によって異なります。不動産の販売業であれば土地や建物、製造業であれば労務費や材料費など、内容はさまざまです。記帳代行であれば、原価は特にありません。資料の郵送や会計ソフトといった経費はありますが、販売管理費(販売や管理を行うために支出した経費)に該当するため、売上原価にはなりません。
つまり、売上原価とは「その経費がなければ売上をあげられない」ものとなります。
原価を把握するための経理処理方法
売上原価を計算するための経理処理方法はいくつかあり、どの方法でも最終的な利益は同じになります。代表的な経理処理方法は次のとおりです。
- 三分法
- 売上原価対立法
- 総記法
- 分記法
- 二分法
では、それぞれの方法の特徴について見ていきましょう。
最も一般的な三分法
三分法は最も一般的な経理処理の方法です。特別な会計方針がなければ、三分法が使われます。三分法では、「売上」「仕入」「商品(棚卸資産)」という勘定科目を使って処理を行います。
棚卸による在庫の金額を反映することで売上原価が計算できます。簿記で習う「しい、くり、くり、しい、期首期末」という経理データ(仕訳)がこれに該当します。
期首 : 仕入 / 繰越商品
期末 : 繰越商品 / 仕入
期首の経理データは、前期に残っていた在庫をすべて販売することを前提としているため、仕入を増やす処理を行っています。逆に期末では、まだ販売していない在庫分を売上原価に含めないため、仕入を減らす処理を行います。
このように期首と期末に簿記では経理データ(仕訳)を入力し、仕入金額に在庫の状況を反映します。毎月棚卸を行なっている場合は毎月同様の経理データを入力することで、月々の売上原価はより正確な金額を把握できます。
たとえば、当月末に翌月分も含めて大量に仕入れていた場合、棚卸を行わなければ在庫の金額が反映されず、本来は翌月の売上原価になるべき仕入れがすべて当月の原価として処理されてしまいます。逆に翌月は仕入れがないため、売上原価がゼロとなり、月ごとの利益が大きく変動します。
三分法では棚卸資産(繰越商品)と売上原価は密接に関係しており、売上原価を確認する際には棚卸資産の金額が正しいかどうかを確認することが重要です。
在庫の出入りを正確に管理する売上原価対立法
売上原価対立法は、「売上」「売上原価」「商品(棚卸資産)」の勘定科目を使用し、「仕入」を使わない点が特徴です。そのため、仕入れたときは「商品(棚卸資産)」の増加として処理し、売り上げたときに「売上」とその原価を「売上原価」として処理します。販売したもののみ原価が入力されていくため、正確な原価と原価が常に把握できます。裏を返せば、正確な原価計算と在庫管理ができなければ、この方法は適用できないということにもなります。
仕入時
商品 / 現金預金など
販売時
現金預金など / 売上
売上原価 / 商品
在庫状況を常に把握しているので、基本的に決算でも修正の必要はありません。ただし、帳簿と実際の棚卸金額が一致しているかは確認する必要があるため、棚卸作業は必要です。
売上原価対立法で処理を行うには、仕入れから出荷までの数量と単価を正確に管理する必要があります。そのためには、システムの導入、それを活用するための業務内容の見直し、棚卸の実施時期やその方法の確認、原価に含める経費の見直しなどにより、経理の体制を整えなければなりません。
その他の原価に関する経理処理方法
総記法
総記法は、「商品」の勘定科目だけで処理する方法です。期中の経理処理は最も簡単ですが、利益や棚卸資産の金額が正確に反映されません。そのため、棚卸を実施して利益と棚卸資産を正しい金額に修正します。決算だけでなく、毎月棚卸を行うことで、月々の利益と棚卸資産の正しい金額を把握できます。
仕入時
商品 / 買掛金など (金額:仕入値)
販売時
売掛金など / 商品 (金額:売価)
決算時
商品 / 商品販売益 (金額:商品の棚卸金額と簿価の差額)
分記法
分記法は、「商品」と「商品販売益」の2つの勘定科目を使って経理処理を行います。在庫状況と利益は把握できますが、売上と原価の金額が経理データ上では分からないという特徴があります。そのため、利益の増減が売上によるものか原価によるものかを判断しにくく、経営分析に必要な売上が把握できない点が不利になります。
「商品販売益」の金額を算出するためには、いくらで仕入れた商品を販売したのかを管理する必要があります。そのため、分記法を導入するためには、売上原価対立法と同程度の準備が求められます。
このようなことから、実務で分記法を採用するケースは少なく、メリットも限られています。
仕入時
商品 / 買掛金など (金額:仕入値)
販売時
売掛金など / 商品 (金額:仕入値)
/ 商品販売益 (金額:売価と仕入値の差額)
決算時
入力なし
二分法
二分法は、「売上」と「商品」のみで期中は処理する方法です。仕入時は「商品(棚卸資産)」を増加させ続け、棚卸のタイミングで「商品(棚卸資産)」の金額を下方修正し、その差額を「売上原価」として算定します。そのため、棚卸を行うまでは売上のみが把握できます。こちらも、決算時だけでなく毎月棚卸を実施することで、月々の原価・棚卸資産・利益を正確に計算できます。
仕入時
商品 / 買掛金など (金額:仕入値)
販売時
売掛金など / 売上 (金額:売価)
決算時
売上原価 / 商品 (金額:商品の簿価と棚卸金額の差額)
商品の仕入れから販売までの原価を見てきましたが、製造業や建築業では、さらに製品の製造や建築に関係する労務費・経費も集計する必要があります。同じ消耗品でも原価に含めるものと販売管理費に含めるものがあり、どのように区別するかを検討しなければなりません。それぞれの製品に労務費をどう配分するかなどの判断も必要です。
どの業種や経理処理でも、売上原価には棚卸が深く関係しています。売上原価を正しく計算するためにも、棚卸をいつどのように実施するのかを検討することが大切です。
正しい売上原価とは?
売上原価の確認には、これといった正解の金額があるわけではありません。ただ、間違いがないかを判断する目安として「原価率」を参考にします。
原価率(%) = 売上原価 ÷ 売上高 × 100
原価率は通常、月ごとに大きく変動するものではありません。そのため、前期の原価率と比較することで、当月や当期の経理処理が適切かどうかを判断する参考になります。ただし、原価率が大きく変わっていたとしても、必ずしも経理処理が間違っているとは限りません。
たとえば、物価上昇によって仕入値が増加している場合、原価率は上がります。ただ、うまく値上げ交渉ができていれば、売上高が増加することで原価率が下がることもあります。
このように、原価率の変動が何によるものかをよく検討し、経理データの数値だけでなく、その他の要素も合わせて判断することが大切です。
もし原価率に違和感がある場合は、棚卸が行われているかを確認します。棚卸をしていない場合は、その月と翌月に棚卸を行います。原価率の変動の原因が棚卸であった場合は、その月に行う棚卸によって、これまでの在庫状況が一気に反映されるので原価率は大きく変動する可能性が高いです。しかし、翌月の棚卸では原価率は正しい数値に近づいていることでしょう。それでも数値の変動が大きい場合は、棚卸以外の勘定科目か、在庫管理そのものに問題がある可能性も考えられます。
売上原価に問題があっても毎月棚卸を行っていなければ、原因の特定に2か月以上かかってしまい、対応が後手に回ることもあります。もちろん、月々の在庫があまり変動しないような業態であれば、棚卸の重要度は高くありませんので、毎月棚卸はしないという判断もできます。時間は有限であるため、どこに時間をかけるか、優先順位を決めていきましょう。
まとめ
商品が1つであれば、売上原価の計算は簡単です。しかし、実際にはさまざまな商品を取り扱うため、売上原価の計算は少し複雑になります。とはいえ、基本的な考え方は変わりません。たとえ商品がたくさんあっても、「売れたものは売上原価」「残っているものは棚卸資産」という考え方で整理できます。
売上原価を計算しようとすると、「棚卸はどのように原価に影響するのか」「どんな経費を原価に含めるべきか」といった疑問も出てくることでしょう。経理処理にはいろいろな方法があります。自分の会社に合った方法を考える際の参考になれば幸いです。