前払費用を支払時の経費にできるのはどんなとき?

 前払費用は、一般的には支払ってから経費になるまで時間がかかりますが、支払った時点で経費にできる場合もあります。

 今回は、前払費用を支払時の経費にできるケースを確認します。

目次

支払時に経費にできる7つの条件

 前払費用をすぐ経費にできるのはどんな場合か、その条件を確認していきましょう。

  1. 支払った日から1年以内にサービスが提供されること
  2. 契約に基づいて支払っていること
  3. 当期の収益と直接関係のある経費ではないこと
  4. サービスの量や品質が変化しないこと
  5. 経理処理を継続して適用すること
  6. 経理で経費として処理すること
  7. 重要性が低い経費であること

 本来の会計では前払い分はすぐに経費にするものではありません。企業会計の目的のひとつは正しい利益を計算することにあるため、将来の経費を当期に入れないようにしているからです。

 しかし、上記の条件をすべて満たすと、支払時の経費とすることができます。支払ったときに経費として処理できると経理が簡単になりますが、税法で認められているかどうかを必ず確認しましょう。

それぞれの条件の意味

 それぞれの条件を細かく確認していきます。

支払った日から1年以内にサービスが提供されること

 支払の対価がサービスであり、支払日から1年以内にそのサービスを受ける必要があります。

 たとえば、4月末に5月から翌年4月までの1年分の家賃を支払う場合は、支払った日からちょうど1年間サービスを受けることになるため、この条件を満たしています。

 なお、物の引渡しの場合は、引き渡された時点が経費として処理するタイミングとなるため、「前払費用」ではなく「前渡金」となり、支払ったときに経費にすることはできません。

契約に基づいて支払っていること

 なんでも前払いすれば良い、ということではありません。契約通りに支払ったものである必要があります。

 1年分をまとめて支払うという契約内容に変更する必要があります。これは、気軽に経理処理を変えられないようにするためだと考えられます。

当期の収益と直接関係のある経費ではないこと

 たとえば、当期に新事業を行った場合にその事業のシステム保守などを1年分前払いしたときは、当期の収益に直接関係する経費になるため、当期分と翌期分になるように経理処理を行わなければなりません。そのため、この前払いについては、支払時の経費にすることはできません。

 一方、社宅の家賃や損害賠償請求に対する保険料などは直接売上に関係しないため、他の条件を満たすことで支払時の経費にすることが可能です。

サービスの量や品質が変化しないこと

 たとえば、コンサルティングは段階を踏んで目的を達成するように動くため、サービスの質や量が契約期間で一定になることはありません。士業との顧問契約も同じで、顧客の状況に応じて内容が変わります。

 こういった状況に合わせて提供される内容が変わるサービスは条件を満たしません。

 一方、保険料や家賃などは内容が変わることはありません。内容が変わる場合は契約自体も変わるため、その場合は新たな取り引きとなります。よって、サービスの質や量が変わらないという条件は満たしています。

経理処理を継続して適用すること

 前払費用は毎期同じ方法で経理処理しなければなりません。これは「当期は利益が出たから支払時に経費にし、翌期は利益が少ないから前払費用にする」といった具合に、利益の増減を経営者の意思によって操作しないようにするための条件です。

 経理処理を変えること自体が悪いわけではありません。経理処理を変えるには理由が必要であり、その理由に合理性があるかどうかがポイントです。たとえば「売上の減少によって、前払いした金額の大きさが軽微ではなくなってきたため」といった理由であれば変更が可能です。

経理で経費として処理すること

 決算書に経費として載せることが条件となります。

 決算書に載せないと税金が計算できないと思うかもしれませんが、経費として載せなくても、申告書で調整するという方法があります。たとえば、倒産防止共済の掛金を資産として処理している場合は決算書上では利益に影響を与えていませんが、税法上は損金(経理でいう経費のようなもの)となります。

 このように申告書で調整する方法もありますが、前払費用は申告書での調整は認められないという条件になります。

重要性が低い経費であること

 ここでの重要性とは、その前払い分がどの程度利益に影響するのか、ということです。たとえば、年間100万円の社宅を前払いした場合、その金額が重要かどうかは支払った会社の規模次第です。売上が1000万円の場合は、売上の10%もあるので重要性が高いといえます。一方、売上が1億円だった場合、売上の1%となるので、売上1000万円の時と比べると重要性は低くなります。

 ただし、どのくらいの割合であれば重要性が低いかという明確な数値があるわけではありません。一般的に経常利益率は売上の5%前後とされるため、売上の1%でも高い割合と考えられます。

 重要性を判断する指標として、金額だけでなく、売上に対する割合も考慮すると良いでしょう。

契約変更で年払いにするときの注意点

 月々の支払いを年払いにしたい場合は、契約内容の変更が必要ですが、契約期間には注意する必要があります。特に当期の収益との関係を考えないと支払時の経費にできないという事態にもなりかねません。

 また、毎月支払いとなっている契約を変更して、年払いにした場合に利益が減少するという効果は限定的です。

 たとえば、当期の上期で契約を月払いから年払いに変えたとします。変更した期は支払時にすぐに経費にできるため、上期で毎月支払った6ヶ月分と年払いした12ヶ月分の合計18ヶ月分を経費にできます。ただ、翌期以降は毎年1回の支払いが続くため、12ヶ月分のみの経費となります。

 そのため、毎月支払いから年払いに変更したとしても実際に経費が増えるのは最初の期だけとなります。

 よって、経費を増やすために短期前払費用の特例を適用するというよりも、前払費用にすることで生じる取崩しの処理や前払費用の管理を簡単にすることを目的として、この特例を適用するかどうかを検討すると良いでしょう。

まとめ

 前払いしたものを支払時の経費にするためには条件があり、簡単には経費にできません。

 たとえ前払い分を支払時の経費にできても、大きな利益を抑えたいという目的に対しては一時的な効果にとどまります。

 しかし、支払時に経費とする処理によって、入力の手間が減り、管理も不要になるというメリットは、契約が続く限り得られます。

 自社にとって何が良いかを考え、自分なりの結論を出したうえで、制度を利用するかどうかを判断していきましょう。

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