
前回は前払いの処理方法についてお話ししましたが、「実際に入力するときはどうすればよいのか」と迷う方も多いと思います。
私が入力するときに何を行い、どう考えて処理しているかを具体的に見ていきます。
前払いを処理するときの流れ
前払いの処理の流れをつかんでおくと、今どの作業をしているのか迷わず進められます。私が行っている経理の流れは以下のとおりです。
- 請求書などから前払費用かどうかを把握
- 経理データの入力(支払時)
- 前払費用で処理した場合は管理表を更新
- 経理データの入力(月々の取崩し)
- 管理表と帳簿の前払費用の残高を確認
実際には請求書を見ながら入力しているときに「前払費用」が科目として出てきたら、その都度管理表を更新します。上記の1~3を行ったり来たりしながら、把握・入力・管理を同時に行うイメージです。
4の月々の取崩は、支払いの入力があらかた完了したタイミングでまとめて入力しています。
前提条件
今回は長期火災保険を契約し、2年分240万円を前払いで支払った場合について考えていきます。
前払費用か経費か判断する
初めに、「前払費用」の勘定科目になるかどうかを判断します。前回確認した「短期前払費用の特例」という制度がありますが、7つの条件を満たせば前払い時に経費として処理できるというものでした。その7つの条件を満たすかどうかを確認します。
今回は2年分の保険料を前払いしているので、「支払った日から1年以内にサービスが提供されること」という条件を満たさないため、経費ではなく「前払費用」を使用すると判断します。
支払時の具体的な入力方法
では、支払時の経理データの入力について具体的に見ていきましょう。
経理データは4つの入力項目でできています。それぞれの項目をどのように入力するのかを見ていきます。
①日付 = 支払日
長期火災保険の請求書や契約書には契約期間が記載されています。そもそも前払いとなっているかどうかは、この契約期間と支払日を比較して判断します。支払日が契約期間よりも前の場合は前払いであり、契約期間よりも後の支払いの場合は通常の支払いと同様です。
今回は最初に「前払費用」と判断しています。「前払費用」を使用するときの日付は支払日で入力します。勘定科目が「前払費用」という資産になった場合は、「お金やサービスを受ける権利(債権)」が増えることを意味します。債権や債務(お金やサービスを提供する義務)が増減するのは、支払いやお金の受け取りが生じたときなので、入力する日付は支払日となります。
②左側(借方)の勘定科目 = 前払費用 or 経費科目
「前払費用」を使用すると判断しましたので、左側の勘定科目は「前払費用」となります。
ちなみに、右側(貸方)の勘定科目は、支払時の入力であるため、「普通預金」などの現金預金の動きに連動した勘定科目を入力します。
③摘要
摘要とは、支払内容のメモ書きのことです。この摘要を見て、経費が正しく処理されているかを確認したり、経費内容を集計するためのフィルターにしたりとさまざまな用途に活用できます。
たとえば、「〇〇生命 長期火災保険 25/08-27/07 コーポ〇〇 301号」などと記入すると良いでしょう。
保険会社名や支払った内容は、経理データの入力元の請求書を探したり、それが経費と認められるかどうかを示すためにも必要なので記載しています。
その他の情報は記載しなくても構いませんが、契約期間を記載しておくと、もし誤って「保険料」で処理してしまったときでもすぐに気づけます。
火災保険であれば、保険をかけている場所や建物を記載しておくと、社宅を解約したときなどに火災保険の解約漏れを防ぐことができます。
税法で定められた内容は記載しなければなりませんが、それ以外は自由です。ご自身の管理方法に合ったキーワードを記載すると良いでしょう。
④金額
今回は保険料だけの支払いになるので、支払額が前払費用の金額となります。
もし、家賃の新規契約を行った場合は、家賃は「前払費用」もしくは「経費科目」となりますが、仲介手数料は前払いではありません。支払額が全て前払費用となるわけではありませんので注意しましょう。
⑤+α
消費税
消費税はサービスの提供を受けたときに認識されます。そのため、勘定科目を「前払費用」にしたときは支払い時ではなく、取崩しの処理を行うときに消費税を認識していきます。
ただし、支払時の経費として処理した場合は、支払時に消費税を認識します。
今回は保険料であるため、消費税は非課税です。そのため、消費税を認識する必要はありません。
上記を踏まえた経理データは次のようになります。
日付:支払時
前払費用 240万円 / 現金預金 240万円
摘要:〇〇生命 長期火災保険 25/08-27/07 コーポ〇〇 301号
前払費用を取崩すタイミング
支払ったときに処理した前払費用は、時間の経過やサービスの提供を受けたときに経費となります。経費にする処理は、毎月でも、決算のときだけでも良いですが、銀行から融資を受けている、もしくは融資を受ける予定がある場合は、なるべく毎月経費化する方が好ましいです。
決算で経費化する場合は、月々の試算表から予測した決算数値が変動する原因となります。試算表では黒字だったのに決算を行ってみると赤字になっている、では印象が良くありません。隠しているつもりはなくても、見る人にとっては赤字を隠していると捉えられかねません。不要な疑いが生じないように月々の処理で経費化をしておくのが無難でしょう。
前払費用を取崩すための入力方法
では、前払費用をどのように取崩すのか確認していきます。
今回は、長期火災保険を契約し、2年分240万円を前払いで支払った場合であり、毎月取崩すこととします。
先に入力する経理データを見てみます。
日付:月初 または 月末
保険料 10 / 前払費用 10
摘要:前払取崩 〇〇生命 長期火災保険 25/08-27/07 コーポ〇〇 301号
入力する4つの項目は変わりません。それぞれの項目をどのように入力するのか見ていきましょう。
①日付
毎月の処理となるので、月初や月末にすることが多いです。月末の支払いが多い場合は、その経理データに紛れ込まないように月初で処理するなど、それぞれの会社が確認しやすい方法で処理すると良いでしょう。一度日付を決めたら、毎月同じ日付を使うと月々の確認がしやすくなります。
②勘定科目
前払費用を取崩す処理を行うため、前払費用が減少する経理データを作成します。前払費用は資産科目であるため、左側に入力すると前払費用の残高は増加し、右側に入力すると前払費用の残高は減少します。そのため、前払費用を減少させる右側に「前払費用」を入力します。
左側(借方)の勘定科目は、前払費用の内容に応じた経費の科目を使用します。今回は保険料を前払いしていたので、「保険料」という科目になります。
③摘要
基本は前払費用と同じ内容にしますが、前払費用を経費化しているということがわかるように「前払取崩」や「前払振替」などと一言追加します。
そうすることで、後から内容を確認する際に支払時のデータなのか、取崩すときのデータなのかをすぐに把握することができます。
④金額
前払費用を経費化するときの金額は経過した月数か、サービスの提供が完了した分のどちらかの金額を入力します。
どちらの金額を入力するかは、サービスの量や品質が変化するかどうかで判断します。コンサルティングなど、サービスが状況に合わせて提供されるものの場合は、サービスの提供が完了した時点で相応の金額を入力します。サービスを受けた分の金額を正確に計算できない場合は、契約期間が終了するまで経費にすることはできません。
今回例に挙げた保険料は、サービスの量や品質が変化しないため、経過した月数で計算します。他にも、家賃や信用保証料も同様に処理します。
計算式は次のとおりです。
経費化する金額(1ヶ月分) = 前払費用の支払金額 ÷ 契約期間の月数
上記で求めた1か月分の金額に経過した月数を乗じることで現時点までの経費化された金額がわかります。
毎月経費化する場合は1ヶ月分を経費にしていきます。年に一回経費化する場合は、決算時にまとめて当期分を経費にします。
⑤+α
消費税
消費税は「前払費用」を支払ったときではなく、前払費用を経費化したときに認識していきます。
消費税がわからなくなった場合は、支払ったときの請求書を探す必要が出てきます。そのため、消費税を正しく経理処理するために、「前払費用」の管理表で消費税の扱いもあわせて管理しておく必要があります。
まとめ
以下に経理データをまとめておきます。
日付:支払時
前払費用 240万円 / 現金預金 240万円
摘要:〇〇生命 長期火災保険 25/08-27/07 コーポ〇〇 301号
日付:月初 または 月末
保険料 10 / 前払費用 10
摘要:前払取崩 〇〇生命 長期火災保険 25/08-27/07 コーポ〇〇 301号
このように支払い時に経費にできるかどうかだけではなく、社宅の管理や入力した金額の理由、確認の効率をあげるための文言など、経理業務や税務署・銀行からの見られ方を意識して1つ1つの入力を行っています。
最初は経理データの一つひとつがどんな影響を持つのか分かりにくいと思いますが、経理を続けていくうちに「大切なこと」と「そうでないこと」が少しずつ分かってきます。
上記の注意点以外にも経理を理解していくと自社に必要な注意点も見えてきます。常に完成された入力というものはありませんので、ベストな入力とは何かを意識するとより良い帳簿になることでしょう。