
前払いをした場合、条件によっては「前払費用」ではなく「経費」として処理もできます。しかし、基本的には「前払費用」として扱い、少しずつ経費にしていきます。支払い内容は多種多様であるため、前払費用を頭の中だけで管理するのは難しいでしょう。そのため、私は管理表を使って「前払費用」を取崩す(経費にする)金額を計算しています。
今回はその管理表をどのように作成して、取崩す金額を決めているかを紹介します。
管理表の入力項目
管理表は以下の入力項目で作成しています。
- 内容
- 支払日
- 支払金額(税込み)
- 消費税区分
- 取崩時の勘定科目
- 契約開始日
- 契約終了日
- 償却期間(契約期間の総月数)
- 当期経費化する期間
- 期首残高
- 期末残高
- 1ヶ月の取崩金額(参考)
- 各月の取崩金額(12ヶ月分)
- 備考
このほか、部門管理を行っている場合は「部門」の項目を追加するなど、会社の状況に合わせて変えると良いでしょう。
また、必須ではありませんが、支払先の住所も把握しておくと、法人の決算に必要な勘定科目内訳明細書を作成する際に確認する手間が省けます。勘定科目内訳明細書とは、決算時の残高の内訳を示した資料で、法人税の申告時に添付するものです。決算時に残高が残っていなければ勘定科目内訳明細書に記載する必要はありません。そのため、管理する必要があるものとないものを分けるなどの対応をしても良いでしょう。私はその判断が面倒なので、一旦全ての住所を入力するようにしています。
各入力項目が必要な理由
それでは、それぞれの入力項目と、それを記入する理由について確認します。
内容
こちらは言わずもがなですが、何に対しての前払い分かを示すための項目です。経理データの摘要をそのまま記載することがほとんどです。
毎年支払っている保険料の場合は、この内容が同じ場合があるので、契約期間を追加することもあります。
支払日
経理データの日付をそのまま記載します。そうすることで参照すべき経理データがいつのものかがわかります。入力時に参照した請求書は月ごとにまとめていると思います。支払日を把握することで、請求書の束に当たりをつけられ、資料を探す効率が良くなります。
支払金額(税込み)
前払費用は、まだサービスを受けていないことを表す勘定科目です。そのため、支払時では消費税を「まだ払っていない」という扱いで入力します。消費税はその名の通り、消費したとき、つまり物を受け取ったときやサービスを受けたときにかかる税金です。そのため、前払費用を取崩したとき=サービスを受けたときに「消費税を支払った」こととして処理します。
消費税を納付する必要がない場合は、消費税の扱い方は特に不要ですので、取崩すときもすべて税込み金額で処理すれば問題ありません。
消費税区分
前払費用を取崩すときには「消費税を支払った」という処理を行うため、そのときに消費税区分が必要になります。消費税区分には「消費税率」「インボイスの有無」「どんな売上に対応する支払いか」などを記載します。
消費税区分は消費税を納めていない会社にとっては重要な情報ではありません。しかし、前払費用は期をまたぐことが多い勘定科目なので、翌期に消費税を納めることになった場合は消費税区分を確認する必要が出てきます。そのため、可能であれば記載しておくと良いでしょう。最低限、消費税率と受け取った請求書がインボイスかどうかだけでも確認しておけば、後日請求書を探す必要はなくなります。
取崩時の勘定科目
支払った内容に応じて、経費科目を記載します。取崩すときの経理データを入力する際に必要です。
契約開始日
契約期間がサービスを受ける期間であり、契約開始日の月から取崩しが始まります。取崩す際の金額計算に必要な情報であるため、忘れずに記載しましょう。
契約終了日
契約終了日を過ぎても残高が残っている場合は、取崩す金額が間違っている、もしくは取崩し忘れている可能性があるので経理データの確認が必要です。
償却期間(契約期間の総月数)
契約開始日から契約終了日までの月数を記載します。たとえば、2年分の保険料の支払いであれば、償却期間は24ヶ月と記載します。
この償却期間から1ヶ月分の取崩金額を計算します。月数は数え間違えしやすいので、指折りで数えて確認すると良いでしょう。
当期経費化する期間
契約開始日から当期の決算までに何ヶ月あるかを数えて記載します。
たとえば、契約期間が9/15〜3/14で、決算が12月末の場合は、決算までに受けたサービス分を経費にします。このときの経費化する期間は約3.5ヶ月ですが、月単位で処理するため、小数点以下は切り上げて4ヶ月として計算します。
ちなみに、償却期間(契約期間の総月数)に変更はなく、9/15〜3/14の6ヶ月で記載します。そうすると、当期は4ヶ月分、翌期は2ヶ月分を経費化することになります。契約期間が終了していない2月末にはすべての経費化が完了しますが、特に問題はありません。
期首残高
前期末の残高を転記します。残高を転記したら、試算表と管理表の期首残高が一致しているか確認しましょう。一度確認したら翌期まで確認することはありません。
期末残高(理論値)
経費化していない月数をもとに計算します。そうすることで、小数点以下の端数処理が正しく行われます。支払金額から今まで取崩した金額を差し引いて計算する方法は、端数処理が正しく行えないので、使わない方が良いでしょう。
といっても、違うのは端数であるため、数円程度の差しかありません。大きな影響はありませんので、そこまで気にしなくても良いでしょう。
決算ではこの金額の合計が貸借対照表の前払費用の残高と一致します。一致しない場合は取崩した金額が違う、もしくは管理表に記載するのを忘れていることがあるので確認しましょう。
1ヶ月の取崩金額(参考値)
支払金額を償却期間(契約期間の総月数)で除した金額になります。小数点以下の端数が上手く計算できないため、あくまで参考値となります。
各月の取崩金額(12ヶ月分)
基本は1ヶ月の取崩金額を12ヶ月分記載していきます。期首残高から各月の取崩金額を差し引いた金額が実際残高となります。端数処理により実際残高と期末残高(理論値)がズレる場合があるので、端数は決算月で調整するなどして帳尻を合わせると良いでしょう。
また、毎月経費化している場合は毎月の実際残高を計算できるようにしておくと、月々の確認が楽になります。
さらに、取崩したかどうかを忘れないように、取崩しの経理データを入力したタイミングで表の背景に色をつけるとわかりやすくなります。
備考
契約期間の途中での解約があった場合に記載しています。
中途解約の場合は、サービスを受けていない分の支払金額は返金されます。その際に前払費用を残しておかないように注意しましょう。
中途解約により前払費用を取崩した場合は、毎月の取崩しとは違うタイミングで経理データを入力します。そのため、返金されたときと取崩すときで経理データが重複することがあります。
重複を防ぐためにも、取崩したことがわかるように表の背景に色をつけるなど、処理したことがわかるようにしておくことが大切です。
中途解約したときの入力
前提として、2年分の長期火災保険240万円を前払いし、残り6ヶ月のところで中途解約した場合を考えてみます。残り6ヶ月なので、経費化していない金額は60万円、返金された金額は55万円とします。
この場合の経理データは2つ入力する必要があります。
日付:発生日
保険料 5万円 / 未払費用 5万円
摘要:〇〇生命 長期火災保険 〇月分
日付:入金日
現金預金 55万円 / 前払費用 60万円
未払費用 5万円 /
摘要:〇〇生命 長期火災保険 解約返金 25/08-27/07 コーポ〇〇 301号
①日付
中途解約の入金額と前払費用の差額5万円分の内容がわかる場合は上記となりますが、支払通知書などに記載がなく、何の費用でいつの期間分のものかがわからない場合は日付を確定できません。そのため、簡易的に入金時に1つの経理データとして下記のようにまとめて入力します。差額の内容が記載されていることの方が少ないので、下記の経理データで対応することが多いでしょう。
日付:入金日
現金預金 55万円 / 前払費用 60万円
保険料 5万円 /
摘要:〇〇生命 長期火災保険 解約返金 25/08-27/07 コーポ〇〇 301号
発生日とは、その経費(今回は保険料)がいつの分かを表しています。たとえば、3/15〜4/2までの保険料だった場合、発生日は期間の末日である4/2にしています。保険料であれば、厳密に日割り計算をすることも可能なので、3月分と4月分を分けて入力することもできます。
②勘定科目
未払費用
保険料は契約期間に対するサービスの未払いであるため、「未払費用」という勘定科目を使います。
未払費用に似た勘定科目に「未払金」があります。「未払金」は、契約期間というものがない一過性のサービスや物の受け取りに対して、まだ支払いが終わっていないときに使用する勘定科目です。
「未払費用」と「未払金」の違いは、受けるサービスに期間があるかどうかです。一時的に受けるサービスなら「未払金」、顧問料などのように一定期間にわたるサービスなら「未払費用」となります。物の受け取りについては、期間が存在しないのですべて「未払金」として処理します。
しかし、「未払金」と「未払費用」を厳密に分けていない会社もあるので、迷う場合はどちらかに統一しても特に支障はありません。自社が経理をしやすい方法で勘定科目を選ぶと良いでしょう。
保険料
今回は、前払費用と入金額に差額5万円がありましたが、保険料の日割り分として「保険料」という勘定科目にしています。保険会社から入金額のお知らせ(支払通知書など)が届くので、その内容により経費科目を変更すると良いでしょう。
たとえば、解約返戻金となっている場合は、そもそも「前払費用」の取崩しではなく、「保険積立金」という資産科目の取崩しの可能性が高いです。(上記の経理データは参考にはなりません。)
社宅関係の保険料なので「福利厚生費」としている会社もあります。自社の中で勘定科目を使う方針が決まっている場合はその方針に従って入力しましょう。
③摘要
差額5万円に関する経理データでは、会社名と経費の内容を入力します。
入金時の経理データでは、前払費用を支払ったときの摘要にそろえて入力しています。ただ、前払費用は解約せずにそのまま契約期間までサービスを受けるのが前提であるので、解約は前払費用を経費にする本来の処理から外れています。本来の処理ではないことを示すために「解約」の文言をつけることをおすすめします。今回は「解約返金」としていますが、「返金」は保険料の返金なのか、保険の解約返戻金なのかがわかるようにするための文言として付けています。
解約返戻金となる場合は、「前払費用」ではなく、「保険積立金」を使う可能性があります。「保険積立金」(解約返戻金)ではないことを示すための「返金」という文言です。
④金額
「現金預金」は入金額、「前払費用」は管理表の残高、「保険料」は前払費用の残高と入金額の差額を入力します。未払費用は保険料と同額です。
それぞれの経理データは、右側(貸方)の合計金額と左側(借方)の合計金額が一致します。経理データを入力したら、左右それぞれの合計金額が一致していることを確認しましょう。
まとめ
管理表の入力項目とイレギュラーな中途解約について確認してきました。
中途解約はそこまで頻度は多くないので、あまり入力する機会がありません。急に発生すると慣れていないため、処理で間違いが起きやすくなります。
ミスを減らすためにも、管理表を作成し、管理表と帳簿残高を比較して確認することが重要です。
管理表を活用できるようになると、経理ミスが減り、帳簿の内容がより正確になります。その結果、帳簿の信頼性が高まり、会社の信頼にもつながります。少しでも正確な帳簿が作成できるよう、管理方法を検討してみると良いでしょう。