
売掛金の残高を確認する際に、理論上の金額と照らし合わせると前回お話ししました。今回はその金額が不一致となる原因と処理方法についてお話しします。
なお、処理方法では販売管理システムを使用していないことを前提とします。
改めて売掛金の理論上の金額を確認
まずは、理論上の金額を改めて確認します。
たとえば、月末締め分が3ヶ月後の月末に入金される条件の得意先について考えます。その場合、8月末時点では、理論上、次の売上が入金されていないことになります。
- 6月締め分 9月30日入金予定
- 7月締め分 10月31日入金予定
- 8月締め分 11月30日入金予定
この3ヶ月分が売掛金の残高として残るだろうと予想できるので、8月末時点の帳簿上の売掛金残高と比較していきます。
売掛金の帳簿残高と理論上の金額が不一致となる原因
では、理論上の金額と帳簿の残高に不一致が生じる原因は何でしょうか?その原因は次のとおりです。
- 振込手数料が差し引かれて入金された
- 売掛金から経費などが相殺されて入金された
- 返品や値引きの処理を忘れている
- 単価を変更するのを忘れている
- 得意先の仕入日と自社の売上日が異なる
- 消費税の端数処理の方法が得意先と自社で異なる
- 支払期日よりも前に入金があった
- 差額が生じる原因について経理に情報共有されていない
- 得意先が金額や支払日を間違えている
- 売上の経理データを入力し忘れている
そもそもですが、得意先が振り込む金額は大きく分けると2つあります。1つは、自社が発行した請求書に従って得意先が振り込んでいる場合です。もう1つは、得意先が仕入れた商品の金額を積み上げて支払金額を決めている場合です。
前者の場合であれば、入金額は請求書のとおりとなることが多く、ほとんど差額は生じません。仮に差額があった場合でも、振込手数料や経費との相殺、単純な金額間違いが多く、手間のかかる処理は少ないです。
しかし、後者の場合は差額の処理が複雑になることがあります。たとえば、当社の売上日と得意先の仕入日の違いによる不一致がある場合(詳細は後述します)は、得意先に未着となっている商品分の差額が生じてきます。
得意先がどのように支払金額を決定しているか理解しておくことで、差額の原因を予想して対処できるようになります。
では、それぞれの原因の詳細とその処理方法について見ていきます。
原因1:振込手数料が差し引かれて入金された
振込手数料が自社の負担となるときに、理論上の金額と帳簿の残高に振込手数料分の差額が生じます。
インターネットバンキングが始まってから振込手数料は金額の種類も多様になりました。単純に330円や550円だけでなく、495円や385円、165円など様々な金額が登場し、生じた差額が振込手数料とすぐに判断できないことも増えています。ですが、毎月入金される得意先であれば、振込手数料は一定になることが多いので、迷うことは少ないでしょう。
差額が振込手数料であると判断した場合は、売掛金から「支払手数料」などの経費に振り替えます。
日付:売掛金の入金日
支払手数料 / 売掛金
摘要:〇〇株式会社 振込手数料
原因2:売掛金から経費などが相殺されて入金された
得意先との契約によっては、運賃や保管料などが自社負担となることがあります。その場合、運賃などの費用がいくらで、得意先がいくら支払うのかを計算した支払通知書が発行されることもあります。
その支払通知書に従って経費の入力を行います。
日付:経費の締日
運賃 / 売掛金
摘要:〇〇株式会社 運賃 〇月〇日入金分
摘要には残額の入金日を記載しておくと、その経費と振り込まれる残額を対応させることができるので、残高を確認しやすくなります。
原因3:返品や値引きの処理を忘れている
返品されたり、販売時に値引きをしていることがありますが、その経理処理を忘れると確認時に金額の不一致が生じます。
返品
返品については書面がないことが多く、経理に情報が回ってこないケースがあります。経理的な処理を誰が行うのか(返品の連絡を受けた人なのか、返品を受け取った人なのか)を明確にすることが重要です。
そのため、返品に関する情報が経理にきちんと集約されるようにルールを決めておきましょう。
返品時の修正は次のとおりです。
日付:返品を受け取った日
勘定科目:売上 / 売掛金
摘要:〇〇株式会社 〇〇商品 返品
経理データは売り上げたときの右と左を逆にしたデータになります。売上を無かったことにする経理データです。
左側の勘定科目は「売上」を使っていますが、返品がどのくらいあるかを集計し、その原因を探りたい場合には「売上返品」などの勘定科目を設定することで、返品だけを抽出することができます。
値引き
値引きの有無は商談で決まりますが、商談後に値引きの処理を忘れてしまっていることがあります。毎回値引きがあるわけではありません。また、値引きがあっても、売上があがった安心感から処理を忘れてしまうこともあるでしょう。値引きの内容は商談を行った担当者のみ把握しているため、他でフォローはできず、売掛金の確認時に判明します。
値引きがあったときの経理データは次のように入力します。
日付:値引きする商品の売上日
勘定科目:売上 / 売掛金
摘要:〇〇株式会社 〇〇商品 値引き
これも値引きの内容を把握したい場合は、「売上」の代わりの勘定科目として「売上値引」を使うことがあります。
原因4:単価を変更するのを忘れている
仕入単価の値上がりや人件費の増加などを販売価格に転嫁しますが、このとき、請求書に単価の変更を反映し忘れていることがあります。
この場合、可能であれば、得意先に請求書を再発行し、経理データは正しい金額で入力しなおしましょう。
誤った請求額 単価100円 × 数量100kg = 10,000円
正しい請求額 単価110円 × 数量100kg = 11,000円
差額 1,000円(売掛金の残高が少ない)
原因5:得意先の仕入日と自社の売上日が異なる
売上を計上する日は、出荷した日や引き渡して検収が行われた日などがあります。仕入れを計上する日も同様に、受け取った日や受け取って検収した日などがあります。
たとえば、当社が「売上日=出荷した日」にしており、得意先が「仕入日=検収した日」にしている場合を考えます。9月末に出荷して、10月に検収した場合、当社では9月の売上となりますが、得意先では10月の仕入れとなります。そのため、9月締めの請求額と支払い額に9月末に出荷した商品分の差額が発生し、この差額だけ売掛金の不一致が生じます。
このように、当社の売上と得意先の仕入れを計上する日が異なるので差額が発生してしまう可能性があります。当社も得意先も正しい経理処理を行っているため、この認識の違いを合わせる必要はありません。
この場合、得意先には請求書のとおりに支払ってもらう、もしくは、月末に出荷した商品分入金が少ないことを把握しておくといった対応になります。
請求書のとおり支払ってもらうと当社で金額の不一致は生じませんが、得意先では過払いが発生します。
入金が少ないことを把握しておくと当社では一部未入金となりますが、得意先では特に差額などはなく、正しく支払いが完了している状態となります。未入金となっている金額が把握している金額である場合は特に問題はなく、翌月の入金でその差額は解消されるはずです。ただ、前月でも差額が発生している可能性があるので、前月の残高も把握しておき、入金されていることを確認しましょう。
+ 前月残高 20万円
+ 当月売上 100万円
▲ 月末出荷分 10万円(売掛金の予定残高)
▲ 入金額 110万円 ※
差額 0円
※売掛金に焦点を当てて計算しています。入金があった場合は売掛金が減少するため、▲(マイナス)となります。
このように前月残高、当月売上、当月末出荷分の3つの金額を把握して、入金額と比較します。この月末出荷分が売掛金の残高となります。この残高は残るべくして残った金額なので、この残高が残っていても異常ではありません。
問題があるとすれば、差額に1円でも生じた場合は何かしらの原因があるので、その原因を確認する必要があります。差額が発生したら、計算に使ったすべての金額が正しいかどうかを見直しましょう。
原因6:消費税の端数処理の方法が得意先と自社で異なる
売上は単価と数量で計算しますが、そこに消費税を加えると小数点以下の端数が生じることがあります。この端数の取り扱いを当社では切り捨てているが、得意先では四捨五入しているとそこで1円のズレが生じます。また、その計算が請求書ごとではなく、納品書ごとに行われている場合、納品書の枚数分のズレが生じる可能性があります。
この場合、得意先と消費税端数の計算処理を合わせる、差額分は次回に追加して請求する、差額分を値引きなどの調整によって処理するなどの方法があります。
最も正確に処理できるのは、得意先と消費税端数の計算処理を合わせる方法です。これにより今後差額が発生しなくなるので、消費税端数の差額を処理する必要がなくなります。得意先と連絡をとり、消費税の処理方法を擦り合わせると良いでしょう。
ただ、取引きが一時的な場合は、得意先と連絡をとる手間に見合うメリットが得られません。また、自社では販売管理システムを使用していないことが前提なので、得意先ごとに消費税端数の計算方法を変更できるしくみを作る必要があります。それができない場合は、そもそも得意先の処理方法に合わせることができません。自社にとって最適な方法は何かを検討してから対応しましょう。
原因7:支払期日よりも前に入金があった
請求書に記載した支払期日よりも前に入金があった場合、売掛金の残高に不一致が生じます。入金が早ければ早いほど、資金繰りには余裕が生まれ、回収できないリスクを減らすことができます。そのため、このときの残高の不一致は、問題となるものではなく、残高を一致させる必要もありません。
注意点としては、なるべく社内で何に対する入金かを把握できるようにしましょう。もし、入金額が請求額と異なる場合は、得意先の入金間違いの可能性があるので、入金内容について確認を取るようにしましょう。
原因8:差額が生じる原因について経理に情報共有されていない
たとえば、営業と経理で分業している会社の場合、得意先からの連絡は営業担当者が受け取ります。その際、入金が遅れる旨の連絡があったとしても、その情報を経理に連絡し忘れると、経理側で売掛金の残高に不一致が生じてしまいます。
そのため、営業と経理で分業している場合は、入金状況を営業に共有します。営業側で連絡を忘れていた場合は、すぐに残高の不一致の原因は判明するので、早急に対処できます。
この不一致が続く場合は、社内の情報共有に問題が生じています。伝達方法や業務を見直す機会として、情報が共有されない理由を調査すると良いでしょう。
原因9:得意先が金額や支払日を間違えている
得意先が振り込む際に違う請求書を見ていたり、支払期日を思い込んでいたり、単純に得意先が振込みを忘れていたりすることがあります。
その場合は、自社内では解決できませんので、得意先と連絡をとって入金内容の確認を行いましょう。
原因10:売上の経理データを入力し忘れている
システムなどを使わずに経理処理を行っていることから、請求書を発行した一方で、売上の経理データが入力されていないこともあります。
この場合、売上を入力するまでの流れの中で、何が原因で入力が滞ったのかを調査します。たとえば、請求書を見て売上を入力している場合は、その請求書が経理まで回ってきていないことがあります。そうであれば、請求書を回し忘れた、請求書を回したが途中で紛失しているということが考えられます。それを防ぐ対策は発生した場所や時間、処理方法などに応じて千差万別です。自社の状況に応じて対処していきましょう。
まとめ
売掛金の残高を確認することで、きちんと入金されているかどうかを把握できます。未回収となっている場合はその理由は何か、過入金となっている場合は二重で振り込まれていないか、などと原因を探しましょう。
さらに、二重で振り込まれていたなどの表面的な原因から「なぜそうなってしまったのか」を考えることで、根本的な対策ができるようになります。原因の原因といったイメージで、どんどん深掘りすることでエラーになった根本的な理由を探すと良いでしょう。
それに対応していくことで、現在の売掛金の残高を正しくするだけでなく、将来の残高管理の精度も高まります。