
前払いを行ったときの消費税について簡単に紹介はしましたが、処理方法などが抽象的だったので実務ではどうするのかわからなかったかと思います。
今回は消費税を納める方向けに消費税のしくみや経理データの入力がどうなるかを確認していきます。
消費税のしくみ
選挙では消費税率の引き下げが謳われ、政党の公約で掲げられてもいます。消費税は日々の生活に密着しており、直接ではないものの国に消費税を納めています。
お店などの事業を行っている個人や会社は、消費者(その商品を購入した個人や会社)から消費税を預かって、その金額を計算して国に納めています。
その金額は、売上などの収益で預かった消費税から経費などで支払った消費税を差し引いて計算します。
このように、消費者が支払った消費税は一度お店に預けられ、お店が集計して国に支払うという流れになっています。
売上などで受け取った消費税
売上などの収益で預かる消費税は計算の肝になるため、その集計は正確であることが求められます。そのため、経理データを入力するときには消費税を正しく処理する必要があります。
そもそも消費税がかかる取引きとは、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 国内で行う
- 事業者が事業として行う
- 対価を得ている
- 物の販売や貸し付け、サービスの提供である
上記の条件を満たす場合に消費税がかかる取引きとなりますが、さらにその中から非課税となる取引き、免税となる取引きを選別していき、最終的に残っている取引きが消費税がかかる取引き(課税取引き)と判断していきます。
売上に関する経理データを例として見てみましょう。
日付:売上日
勘定科目:売掛金 / 売上
消費税:対象外 / 課税売上10%
摘要:〇〇株式会社 記帳代行
消費税に着目して上記の経理データを見ていきます。
まずは、売上側(右側)の「課税売上10%」を見ていきます。今回、売上は記帳代行なので、消費税の条件をすべて満たし、非課税でも免税でもありません。そのため、課税取引きとなり、10%の消費税がかかるので、「課税」という文言が頭につきます。また、売上に対する消費税でであるため、「課税売上」となります。
売掛金側(左側)の「対象外」についてですが、売掛金は債権であり、物やサービスではありません。そのため、課税対象外となります。
経費などで支払った消費税
支払った消費税は受け取った消費税よりも複雑で、自社の消費税の計算方法によって入力時にどの程度細かく分類するかが変わります。
基本的に消費税率を自分で判断する必要はありません。消費税法で認められる特例があり、たとえば切手については購入時のレシートでは非課税となっていますが、10%の消費税率として処理しても良いことになっています。このように、レシートと消費税率が一致しないこともありますが、基本は請求書やレシートといったインボイス(消費税額が記載された資料)などに記載されている通りに消費税率を入力します。
日付:発生日
勘定科目:支払手数料 / 普通預金
消費税:共通対応仕入10% / 対象外
摘要:株式会社×× 会計ソフト利用料
支払手数料の消費税「共通対応仕入10%」についてですが、経費などに含まれる支払った消費税なので「仕入」となります。消費税率の「10%」はレシートや請求書から読み取ります。
「共通対応」という文言については、消費税の計算で最も手間のかかる方法(個別対応方式)を適用している場合に記載します。「共通対応」の他にも2つの文言があり、それぞれの意味は次のとおりです。
- 課税対応:課税売上のみに対応する課税仕入れ
- 非課税対応:非課税売上のみに対応する課税仕入れ
- 共通対応:課税売上と非課税売上の両方に共通する課税仕入れ
課税売上とは、自社の売上のうち、8%でも10%でも消費税がかかっていると判定したものをいいます。その課税売上を得るために支払った経費にかかっている消費税が「課税対応」となります。一方、非課税売上を得るために支払った経費にかかっている消費税が「非課税対応」です。「共通対応」は課税売上と非課税売上の両方を得る、逆にいうと、どちらの売上のために支払った経費かわからないときの消費税です。
たとえば、商品Aを販売する(課税売上)ために商品Aを仕入れた場合、この仕入れにかかる消費税は、課税売上である商品Aを販売するために仕入れたものなので「課税対応」となります。もし、この商品Aが車椅子であった場合は非課税売上となるので、その仕入れにかかる消費税は「非課税対応」となります。もし、この仕入れ(経費)が文房具で、特定の売上に対する経費でない場合には、その経費にかかる消費税は「共通対応」となります。
このように、どんな売上に必要な仕入れだったのかを経費ごとに判断しなければなりません。
支払った消費税は全額支払ったことにならない場合がある
「課税対応」「非課税対応」「共通対応」と見てきましたが、このうち「非課税対応」「共通対応」に分類された消費税については全額が支払った消費税になるわけではありません。
特に「非課税対応」は支払った消費税を認識できません。非課税売上は受け取った消費税が0円なので、0円から差し引くことはできないと考えられるためです。
このように非課税売上のために支払った経費にかかる消費税は、支払った消費税とならないので、「共通」に含まれている非課税売上に対応する分も支払った消費税と認められません。
ただし、これは最も厳密に消費税を計算する場合の話で、この「課税対応」「非課税対応」「共通対応」を使わない計算方法もあります。その場合は、全額支払った消費税となることもありますし、支払った消費税ではなく受け取った消費税から概算で計算する方法(簡易課税制度など)もあります。
経理データの入力で消費税を正しく処理するためにも、自社がどのように消費税を計算しているのかを把握する必要があるでしょう。
前払費用の消費税の取り扱い
以前、前払費用のお話をしましたが、それに沿って消費税をどのように処理するかを見ていきます。
今回は、1年分の事務所家賃を前払いし、短期前払費用の特例を使わなかった場合で考えます。
日付:支払日
勘定科目:前払費用 120万円 / 普通預金 120万円
消費税:対象外 / 対象外
摘要:B不動産株式会社 事務所家賃 1年分
日付:取崩時
勘定科目:地代家賃 10万円 / 前払費用 10万円
消費税:共通対応仕入10% / 対象外
摘要:B不動産株式会社 事務所家賃 1年分 取崩
消費税はサービスを受けたときに「支払った消費税」を認識します。そのため、前払いしたときはサービスをまだ受けていないので、支払った消費税を認識せずに「対象外」として処理します。その後、サービスを受け、取崩しの処理を行ったときに支払った消費税として「共通対応仕入10%」で消費税を認識します。
「共通対応」となっているのは、この事務所を課税売上だけのために使用しているとはいえないことが理由です。家賃だから「共通対応」になる、という意味ではありません。たとえば、飲食店の店舗の家賃であれば、その店舗は飲食の提供(課税売上)のために借りているので、「共通対応」ではなく「課税対応」となる可能性があります。あくまで可能性で、会社の管理(人事や総務、経理など)をその店舗内で行っている場合は、非課税売上に対応する業務もその店舗で行われているため、「共通対応」となります。
このように、勘定科目で決めるものではなく、その経費が何のために支払われたのか、どういった業務を行っているのかを理解して、消費税をそれぞれの区分に分けていきましょう。
まとめ
消費税は「受け取った消費税」から「支払った消費税」を差し引いて計算されます。そのため、売上では消費税がかかっているかどうかの判定が必要です。経費や仕入れについては、消費税の計算方法をどのように行っているかで「課税対応」「非課税対応」「共通対応」を分ける必要があるかどうかが変わります。区分を行う場合は、勘定科目ではなく、その経費が必要な理由やその経費で何をしているかを理解した上で、1つ1つ、消費税を区分していきます。
この消費税の区分については、税理士や記帳代行ではすべての支出の理由を確認することができないため、区分の精度には限界があります。自社内で経理を行っている場合は、その経費が必要な理由もすぐに分かるため、より正しく処理することができます。
理解を深めるためにも、日々の入力から消費税を意識してみると良いでしょう。